イロトリドリの黒
元used select shop RiCKLE! オーナー空本 健一現NPO法人ブリコラージュ江田島 理事長No. 17
元used select shop RiCKLE! オーナー空本 健一現NPO法人ブリコラージュ江田島 理事長No. 17
広島の安佐南区山本という地域に「RiCKLE!」と言うお店がありました。倉庫を改装した巨大な秘密基地を思わすその建物は、歴史を感じさせる外観の佇まいとオーナーの想いが込められた装飾に中を覗かずにはいられない。店内に入ると綺麗に並べられている洋服には、一つ一つに店主自らの手書きのコメントが添えられたタグが添えられている。並んでいるのは洋服だけでは無く、花もあれば家具もあり、絵も飾られており、商品とそうでないモノの境目がわからなくなってしまう。お店と形容してしまうのがもったいないほどに、「RiCKLE!」という世界観が表現された空間は、その一つ一つにオーナーの意匠を感じる。2019年に16年目を迎えた「used select shop RiCKLE!」というお店は、去年の2019年11月3日を以ってその歴史に幕を下ろした。そんなお店を営まれていたのが、オーナーの空本健一さん。取材を開始した時には、お店は11月の閉店を控え、ゆっくりと最期の時を迎えようとしていました。「幸せな閉店」へと向かう中で、空本さんが「RiCKLE!」を通して観てきた景色や、お店のある地域の道に「銀山門前通り」と名前をつけられた、その街への想いや催された数々のイベント。そんな「RiCKLE!」という場所を通して、お客さんにどう向き合ってこられたのか。そして、これからのコトを伺ってきました。
今、「RiCKLE!」いうお店を振り返ってみて、まず思うのは「ありがとう」という感謝の気持ち。やっぱりお店って個人商店であればあるほどに同一人物化していく感覚と、別人格として独り立ちしていく感覚との二面性があって。「この場所が解体されて無くなるんだ」って意識した瞬間から、このお店は自分の分身というか、相棒のような存在なので「幸せにフィニッシュさせてあげたいな」という想いが強くなってきたんだ。始めることは勢いで出来るけど、続けることは結構しんどい。そして、「やめる」が一番難しいことだと思っていて。「終わっちゃう」というのとは違うニュアンスで、最後、長い期間をとってお客様と一緒に丁寧にご挨拶をしながら、みんなの記憶の中に刻まれて残っていって欲しい。そんな終わり方が出来たらいいなと思って、今「幸せな閉店」を作っていってる真っ最中なんだ。
2011年から自身でお店に立つようになり、お店で買い物をする楽しさとか、お店で買ってくれたことへの感謝の印だったり、「またお店に行きたいなって思ってもらえる表現方法として何かないかな?」って事をずっと考えていて。それで、買い物をしてくれたお客さんのショッパーにその年のテーマを手書きで書くことを始めたんだ。先ずは「その年のテーマを決めて一年を過ごそう」という自分自身のライフスタイルのコンセプトを決めたところからスタートしたんだけど。それをショッパーに書き始めたら、お客さんが意外に喜んでくれてね。それも自分が全部書くんじゃなくて、お客さんと一緒にショッパーを作ってみたりして。一緒に作るという共同作業が楽しかったし、リアルな店での買い物という体験がより印象深く、想い出として残ったんじゃないかな。
この場所に移って来た当初、お店の周りは本当に何もない所だったので、単独でやっていくのは厳しいと思っていたんだ。だからこの地域にあるお店を巻き込んで「チーム戦で街を盛り上げていかないといけないな」という想いはあったし、せっかくお客さんにこの街に足を運んでもらえるなら半日遊んで帰ってもらえるような地域にしたいなって思ってたんだ。何度も一緒にパーティーを企画したり、イベントをやったりして仲良くなってゆく過程で仲間が増え、ついには2014年に、この街の人たちみんなで「銀山門前通り」という名前を道につけたんだ。道の名前って勝手につけていいんだよ。地蔵通りだったり、相生通りだったり。それらは全部愛称であって別に正式な名前じゃないんだ。それからはお客さんに道を尋ねられた時には、あたかも昔からそう呼ばれているように、しれっと「銀山門前通り」って名前をしつこく使っていくうちに次第に浸透し始めたんだ(笑)。
そうして浸透してきた頃合いで始めたのが、キャンドル作家のチエミサラが持ってきた「TOMOS LIGHT」という企画のイベントだったんだ。今では「銀山門前通りTOMOS FES」という名前に変わって毎年8月最後の土曜日の夕暮れ時から、この街の夏の終わりの風物詩にまで育ってきてるよ。
僕はその街や地域の色を決めるのはお店だとも思っているので、お店の存在っていうのはすごく重要だと思っているんだ。だからストリートにそういう面白いお店が軒を連ねていて、「あの通りに自分達もお店を出したいな」って思ってもらえたらそれは嬉しいことだよね。意識的に使命感を持って街を盛り上げることに取り組んできてはなかったんだけど、このお店に関して今振り返ってみるとそうだったのかなって。だけど、RiCKLE!を幸せに閉店させ、地元である江田島に帰ってレストランをする際には、今度は使命感を持って島に帰ろうと思ってる。今まで経験して蓄積してきたものを持って帰り、今まで培った仲間たちや地元の人たちと一緒に江田島を盛り上げたいと思ってるよ。
色のことは正直凄く悩んでた。自分自身でいうと子供の頃から剣道をしていたので、日本のトラッドな藍色が好きで。着ている服もネイビーのものが多いんだ。だからパーソナルカラーは藍色なんだけど、「RiCKLE!」のお店の風景でいうと黒だと思うんだ。それも「真っ黒けっけ」なモードの黒ではなくて、色んな人(イロ)が集まっている「 イロトリドリの黒 」って感じかな。リックルの外壁に375人もの方々に手形を押してもらった「黒い手形のインスタレーション」があるのだけど。それは10年以上前に、何か街のシンボルを作りたいねって、当時、常連で通ってくれていた経済大学に通う三、四人の大学生が中心になって進めてくれた企画なんだ。今、見返すと、「 イロトリドリの黒 」って決めたタイトルとも凄くマッチしているし。この店の印象的な風景になったと思っているよ。
そしてこれからやる江田島のお店のテーマでもあるし、これからの人生のテーマとしてもずっと抱えていくものだと思っている言葉があるんだ。「我耕す故に我あり( I plow therefore I am)」という言葉なんだ。「視線は100年先を見て。視点は地球を俯瞰して捉えながら、でもやることは足元を耕す」ということ。耕すと言っても畑を耕すという直接的な意味ではなくて、「今、自分の目の前にあることに全力を尽くす」ということ。世界を変えることはできないかもしれないけれど、自分を変えることはできる。できることは、足元を耕すことしかないと思ってる。これから始まる「江田島ポタジェ&レストラン ブリコラージュ17」は、このテーマを表現する場所にしたいんだ。島外からやって来る人たちに、美しい瀬戸内の自然を感じてほしい。 豊かで美味しい地元の食材を食べてみてほしい。 素敵な島暮らしをまるごと体験してほしい。江田島の癒しをのんびりと過ごしてもらえる場所にしたいんだ。
フランス人建築家アーティストユニットの2M26のメラニーとセバスチャンにアートインレジデンスで建築過程を公開しながらお店をブリコラージュの思想で創っていくんだ。園内には、果樹、ハーブや野菜が育つ美しいポタジェを育てていく。何年もかかると思うけど。目の前に裏宮島を望む江田島の西海岸、四郎五郎岬の夢来来の場所に、島の魅力を知るためにの入り口にして、目的地となるフードトリップの拠点となることを目指してるんだ。海と川の河口の汽水域のように、島外からやって来てくれる感度の高い人達と、島の人たちが触れ合うことによってお互いが刺激を与え合える環境を作りたいなぁと思っている。そして結果的に、縁もゆかりもない人達が、江田島に住みたいなって思ってもらえるような。そんな風景を創っていけたらいいなって思ってるんだ。誰かに面白くしてもらおうと思っていてはダメだよね。自分の街は自分で面白くしていかないとね。
「RiCKLE!」というお店を通して「お店というものは生き物なんだな」。そう改めて思いました。今では「RiCKLE!」という場所は更地になってしまっていて形としては何も残っていないのだけれど。その街の歴史や人の記憶の中には色濃くその姿を残していて。閉店間際のお店に伺わさせて頂いた際に、オーナーの空本さんが店の一部を担っていた什器をお客さんに格安で譲られていて。「RiCKLE!」にあったそれらのピースは他の場所で新しい命を与えられていて。また確実に「RiCKLE!」というお店の記憶の物語として残っていく。そして「RiCKLE!」という場所で得た体験や実感は新しい何かの種となって次のステージでの芽吹きを待つ。そうやって紡がれていく。そういう部分を大切にされてきたんだな。ということが伝わるお店だなと思いました。インターネットの登場以降。様々な売買の形が生まれました。オンラインで物が売り買いできる時代。でもそうやって得た物には体験や実感という物語が欠落していると思います。お店には店主の想いがあり、人が足を運ぶ偶然がある。そこには買い物以上の体験があり、そんな一つ一つが街を作っていく。だからこそ、街へ店へ、足を運んで欲しいと思います。江田島の新しいお店。楽しみですね。みんなで遊びに出かけましょう。