間to○ブルー
(まとまる)
廣島スタイロ(オールハウス株式会社)桑原 勇太廣島スタイロディレクターNo. 6
廣島スタイロ(オールハウス株式会社)桑原 勇太廣島スタイロディレクターNo. 6
現在、注文住宅・リノベーション設計を担当しながら、本企画「廣島スタイロ」のディレクターとして「色を使った街のプロモーション」を行っている桑原勇太さん。そんな彼の活動の指針となっているのが、幼い頃から憧れている千利休の存在。その影響から「良い空間には、物語があることが必須。そのためには対話をし、間(きっかけ)をデザインすることが重要」と考え、ストリートに根ざしたクリエイティブ活動を行うようになったとか。そんな桑原さんが大切にしているという広島の風景は、「三篠橋から見える大田川」。彼の原点とも言える風景とそこに秘められた色について、話を聞きました。
僕は高校生までサッカー漬けの毎日を過ごしてきたんです。しかし、高校時代最後の冬の選手権が終わって、サッカーに区切りをつけることになって。そんなとき、いつも応援してくれていた担任の先生から「少し休みんちゃい」と言われたんです。今までサッカーだけに時間を費やしてきて、急に生活の中心となっていたものがなくなり、すぐには「今後何をしていこうか」という決断をするのも難しいだろう、と。「気持ちを整える時間を持ちなさい」という先生なりの配慮だったんですね。
その休みの間、自分は何が好きで、どんな人間なのかを改めて振り返ってみようと思ったんです。そこで、本を読む、映画を観る、街中を歩くといった自分の好きな事をしていく中で探って行こうと思い、広島の街を歩き続けることにしました。
まずは、小さい頃にお爺ちゃん、お婆ちゃんと一緒に歩いた散歩道を歩きました。お爺ちゃん家がある横川から三篠橋を渡り、土手沿いを「そごう」まで行き、そこから八丁堀にある、大衆食堂の「ますゐ」に向かう。その懐かしい道順を何度も繰り返し歩くことにして。しばらくそうして過ごしていると、自然と街の景色の中に「ここにこういうモノがあったら面白いのになぁ」という想像をするようになっていったんです。このときに建築や街づくりに興味がでてきたんだと思います。
そして同時に、自分の過去を辿っていく中で、千利休が好きだったことも思い出したんです。でも、千利休が好きと言っても、千利休のプロダクトや茶室などのデザインから入り込んだのではなく、僕が興味を抱いたのは、「空間やプロダクトの作られた」背景や、「どのような形で活動を広めていったのか?」という過程、さらに「どのような精神でやっていたのか?」という千利休の生き方についてだったんです。
商人出身だった千利休が“お茶”という身分が高い人のカルチャーの中で、その独自の発想と精神で新しい価値を創造し、その世界で認められるまでに至った。その姿の中に、現代で言うところのカウンターカルチャーやロックンロールの精神に似たものを強く感じて憧れたんです。「もし今の現代に千利休が生きていたら、どんな表現をするんだろう?」って想像を膨らませてみたり(笑)。
その頃からライフスタイルに興味を抱くようになり、いろんな街に行くようになったんです。なかでも尾道とロサンゼルスには影響を受けました。尾道では、瀬戸内海ならではの景色や、街ぐるみでのリノベーション。ロサンゼルスでは、西海岸の文化と、歩いていて心地の良い“住む街”と“遊ぶ街”の景観。また、ホームパーティーもたくさん行われていたこともあって、トータルで暮らしを楽しめました。
僕は建築の仕事をしていますが、ハード面だけではなく、ソフト面もこだわりたいと思っています。というのも、良い場(空間)は人が作ると思っているからです。いくら良い建物があっても、人と場(空間)が重なり合わないと、良い景色にはならない。もっと物語的な部分というか、人と人の間とか、都市と都市の境界、そういう“間”をデザインすることがいろいろな境界を飛び越えていくきっかけになると思うんです。そのようなきっかけを作っていきたいと思います。
お爺ちゃん、お婆ちゃんと一緒に歩いていた地元から街への道、街から地元への道、そのそれぞれの道を繋ぐ三篠橋——。その“間”がある橋を夕方から夜にかけて歩いていると、川面の夕闇に染まった深い青が、まだかすかに残っている夕日のオレンジ色を飲み込んで、さらに街の光を反射させていくのが見えるんです。そこには、自分の中にある潜在的な感覚と、街に溢れている情報を繋ぐ“間”が存在している感じがしていて。様々な時間帯によって水色をベースに他の色と混ざりあっていく景色は、とても自分が今活動のコンセプトとしている“間”のデザインにもすごくリンクしていて、とても好きな景色なんです。
本企画のディレクターの桑原勇太さんが最初に語ってくれたのは、この企画に対する真っすぐな想いでした。「広島は特別な街だと感じるんです。個性的で面白い人がたくさんいる一方で、街自体がコンパクトだから、海や山、島といった自然にも1時間圏内でアクセスできる。だからこそ、いろんな遊び方や暮らし方ができると思うんです。そんな街の良さや可能性をもっとたくさんの人に知ってもらえるように、そこで暮らしている人や働いている人に着目したい。そして、今の活動のきっかけになった原風景を尋ねて、そこから“色”を抽出する。そうすることで、今まで見えてこなかったこの街の新しいカラーが見えてくると思うんです」この彼の言葉から、「純粋に広島の街と人が好きで、この街の可能性を誰よりも信じている、そんな印象を受けました。建築というハードな仕事に就いていながら、彼が大事にしているのは物語性であったり、言葉であったり、空気であったりするようなソフト面です。「それらすべてが重なり合わないと、良い景色にはならない」という彼の考え方は、建築という業種にこだわらず、常にアンテナを立てて、面白そうな場があれば顔を出し、面白そうな人がいれば会いに行くというように、街を横断的に歩いて自然と獲得していった結果なんだと思いました。そんな彼が本企画を通して、さらに多くの人と出会い、どんな新しいアイディアを考え出すのか、とても楽しみにしています。