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.comm(ドットコミュ)中山 浩彰(通称 鹿さん)ソーセージクリエイターNo. 5
.comm(ドットコミュ)中山 浩彰(通称 鹿さん)ソーセージクリエイターNo. 5
広島のソウルフードである「ホルモン天ぷら」や「でんがく(ホルモン)うどん」。それらが食べられる老舗が点在するのが、広島市観音町です。そんな町の一角で、新しい「肉文化」が生まれようとしています。元総合格闘技家であり、現在ハンターにしてソーセージクリエーターである中山浩彰さん(通称・鹿さん)が手がけるソーセージラボ「.comm」です。中山さんの経歴は、一見“異色”のように感じますが、そもそものコンセプトは実にシンプル。格闘技をしていたのも、ジビエ肉にハマったのも、すべては「自分の身体をベストな状態にもっていきたい」という欲求があったからだそう。そんな中山さんに「広島で一番好きな場所は?」と伺ってみると、意外にも「ラボの目の前にある都町公園」という答えが。その真相を聞いてみることにしました。
都町公園は、僕にとって.comm(ドットコミュ)の一部なんです。「自分たちのこだわりの仕事をするためには、まずこだわりの身体づくりが必要だろう」という想いがあって、毎日都町公園でトレーニングしているんです。自分の実家も福井県の田舎にあったので、緑が見える風景は癒しにもなっていますし。また、都町公園は、「ソーセージというツールを使って、どんな新しいクリエイションを行うのか」を考えるところでもあるんです。毎日身体と頭の体操を同時に行っている場所なので、今の僕の生活には欠かせない空間ですよね。
格闘技は高校時代からずっとやりたいと思っていたんです。それで、「格闘技をやるなら、血気盛んで、血がしたたる街だろう!」という勝手なイメージから広島に行きたいと思い、広島大学を受験することにしました(笑)。僕は目標を設定すると、ちょうどその少し上を超えくらいにいくのが昔から得意だったというのもあって、高校時代の成績はそんなによくはなかったんですけど、広大もギリギリ合格できました。
大学時代は、本当に格闘技漬けの毎日でしたね。就職先については、周りが就活をはじめたので自分も試しにやってみたところ、一次面接ですんなり受かっちゃったんです。それが、はじめの就職先の大手スポーツメーカーです。ただ、いざ就職してみると、半年程でつまらなくなってしまって……。一方、ちょうどその頃に出場した格闘技の全日本大会で、敗退したもののプロへの昇格が決定。当時は食生活が荒れていて、必要なトレーニングの時間も満足に取れていなかったりしていたので、それを理由に退社を決意しました。が、1年間引き止められ続けてしまって、1年半後にようやく退社することになりました。
食に興味を持ちはじめたのもその頃。元々、古武道や古武術など、身体操作や身体の調子をよくする研究が好きだったんです。格闘技をしているときも、ベストな状態で試合に臨むためにやっていた「自分の身体を最高の状態にもっていく」という作業が好きで。本格的に食事面に気を使うようになったのは27歳くらいの頃ですかね。当時、格闘技のジムが一緒で親交も厚かった野村俊介さんに「ハンター面白そうじゃけ、やろう」と誘われ、その影響で猟銃免許を取得し、ハンターになり、山に狩りに行くようになりました。
そういう生活をしていく中で、次第に食べていくためのリアルビジネスを考えるようになっていって。そこで、自ら獲ったジビエ肉を解体して売る食肉処理場を併設したラボを野村さんと立ち上げることにしました。
でも、なかなかジビエの生肉が売れない状況が続きまして。すると、ちょうどその頃、三越から催事の出店の話しをいただいて。思い切って総菜のほうに振り切ってみようとソーセージをつくりはじめました。それがきっかけで、ソーセージに特化したビジネスになっていったんです。
格闘技ではひと通りの技ができる人より、ひとつの技に特化した人が強かったりします。それは、ソーセージも同じ。僕は料理のことはわからないけど、ソーセージというツールを介してだったら、料理界のすごい人とも対等に喋れる。そういう意味では、ソーセージは自分にとっての言語のひとつになっているんです。
近年は農家さんや美容院、飲食店さんなどとタイアップしてコラボソーセージをつくっているんですが、その種類10を超えるようになりました。こういうところで開発したソーセージのレシピは、ゆくゆくは表に公開したいとも思っていて。だって、皆が家でソーセージをつくれたら面白いじゃないですか。会社や企業がそれぞれオリジナルのソーセージをつくって、それを元にソーセージ自体もより社会に広がっていく。そんなソーセージ文化があったら最高ですよね。
今後は何をやってもいいとは思っているんですが、やっぱり僕はベースが格闘家なので、日々トレーニングをして、一方で自分の食べたいものをつくり、それを食べることで身体もつくっていく生活をしていきたい。
でも、ソーセージだけはやり続けたいですね。ソーセージだけはやらないといけない。僕にとってのトレーニングのようなモノですからね。
一点突破——。そんな言葉を中山浩彰さんの話を聞いていて感じました。「自分の身体をベストの状態に持っていきたい」という素直な欲求から、身体を鍛え、ジビエを食べる。その結果、その行為自体が仕事になっている。「鍛えあげられたソーセージ」という武器を持って飲食の世界を突き進む姿は、まさに格闘家そのもの。その上、行動一つひとつがエンターテインメントになっていて、側から見ていてもワクワクさせられてしまいます。元々料理人ではないという二人。「ジビエ」「ソーセージ」というアイテムに特化することで飲食業界を湧かす姿は、これからの新しい働き方の提案と勇気を与えているのではないかと思います。